KU 神奈川大学 工学部

留学体験記 山田 将大(機械工学科)

 私は、神奈川大学の派遣交換留学の制度を利用して4年次の8月から翌年3月末までの7カ月間アメリカのインディアナ州にあるパデュー大学ノースウェスト校(Purdue University Northwest)へ留学しELP(English Language Program)を履修しました。

 入学時から3年次に至るまで留学という言葉は頭の片隅にもありませんでしたが、留学のきっかけは突然やってきました。私は3年次の春に機械工学科の選択科目である工作機械の授業を履修していました。工作機械というのは、私たちの生活を裏で支える優れた機械です。私は、授業内でそれらの機械の動画が紹介された際に、その見たことのない動きをする機械たちに心を動かされました。調べてみると日本発の工作機械が世界中の様々な人々に使われていることを知りました。自分もそれらの機械作りに携わり、優れた機械を社会に提供できたら、分野を問わず世界中の人々と機械を通してつながれると思いました。同時に、その目的の達成には高い英語力が不可欠だと気付きました。また、エンジニアとしてユニークな発想も重要であり、発想力の幅を拡げるためにも異文化交流は役立つと思いました。幼い頃から洋画を観たり、外国の人たちと遊ぶのが好きで、外国人が異なる文化、価値観を持っていることを実感していたこともあり、留学という考えが自然に出てきました。また、入学時より希望していた大学院の進学先を海外へ移すことも同時に考えました。

 留学を決意したのは3年次の4月でしたが、神奈川大学の派遣交換留学の出願時期は11月中旬だったので、あまり準備期間はありませんでした。募集要項を確認すると、どの大学も長期留学の募集定員は2名ほどであると同時に、英語の資格としてIELTSで4.0-6.5程度(TOEFLも可)必要とのことでした。しかしながら、IELTSについてはそれ以前に聞いたこともない試験だったので、それが一体どの程度の難易度なのか想像もつきませんでした。因みに、私の英語力は入学時のTOEIC Bridgeで136/180点、2年次の終わりに受けたTOEICで515/990点と平凡でした。そのため、出願直前まで授業の傍ら英語の勉強に必死に取り組みました。その結果、11月に受けた初めてのIELTSでOverall 5.5 (L:5.0、 R:5.5、 W:5.5、 S:5.0)を取ることが出来、その後の選抜で無事に交換留学生として選ばれました。IELTSにはスピーキングのテストがあるのですが、英語を日常で話す機会がなかったので、神奈川大学の英語力UP集中講座という月曜日から金曜日まで毎日90分英語を話す授業を履修して、留学前にスピーキング力を劇的に向上することが出来ました。

 アメリカの新学期は8~9月に始まるため、8月初旬に渡米しました。留学先のパデュー大学ノースウェスト校はアメリカ中部にある、大都市のシカゴから車で50分程度のハモンドという小さな町にある公立大学で、世界的にも機械工学の分野では有名です。東京育ちで、いつも町が狭く窮屈に感じていた私にとって、びっくりするくらいに何もないハモンドは最高の場所でした。大学では、留学生向けの英語クラスであるELPでライティングとリスニング/スピーキングの2クラスと、専門科目の授業雰囲気も知りたかったので流体力学を履修しました。流体力学の授業雰囲気は日本とは全く異なり、学生は先生の説明中であっても自由に質問をし、先生もそれに丁寧に答えていました。もう一つの日本との大きな違いは、授業によらずどの教授も毎週そこそこの量の宿題を出すので、必然的に勉強時間も増え、授業の理解度も深まりました。「アメリカの大学は入学するのは簡単で卒業するのは難しい」という話を聞いたことがある方も多いと思いますが、それはそういった課題の多さも一つの理由だと思います。また、大学院では修了するための最低GPAが3.0に設定されている大学もあり、必然的に学生の勉強量は多くなります。これは、入学試験重視の日本とGPA重視のアメリカの大きな差だと思います。

12月の学生寮からの景色

 住居はベッドルームが個々に分かれている4人部屋の寮でした。部屋のキッチンが広くオーブンまであり、私は料理が好きだったこともあり全て自炊していました。留学中はルームメイト(写真参照)や、元軍人で沖縄基地に居たこともあるTaylor君と過ごすことが多く、一緒に買い物に行ったり、ジムで運動したりしていました。休み期間は彼の家で過ごすことが多く、寮生活では体験できないアメリカの暮らしを体験できたのはとても良い思い出で、Taylor君とは今でも連絡を取り合っています。

 留学を考えている人の中には、現地の授業を受けることで飛躍的に英語力が向上すると思っている人もいると思います。しかし、そんなことは一切ありません。私の場合、英語のクラスは、一日3時間の授業が週4回あるだけでした。特に理系の科目では、数式などがメインになる事が多く試験でも英文を書くことはまずなく、さらに作文やプレゼンなどもあまりありません。そのため、英語力を向上させるのに最も重要な事は授業外で何をするかです。私は空き時間に主に二つの事を行っていました。一つ目は、NETFLIXの視聴です。ELPの授業に参加してまず気づいたのは、先生は生徒のレベルに合わせた理解しやすい話し方、語彙を使っているということです。そのため、授業内の英語が簡単に理解できたとしても、授業外での友達とのやり取りは全く理解できないということも起こります。そのため、リスニング力を向上させるために私が始めたのはNETFLIXの視聴でした。11月頃から帰国するまで、私は毎日3-4時間英語のドラマ、ショー、ドキュメンタリーを観ていました。結果的に、留学前は最も苦手だったリスニングも帰国後にはIELTSで8.0を取れるほどまで上達しました。NETFLIXでは、動物のドキュメンタリーなどを見ることで、リスニング力だけでなくアカデミックな語彙や話し方を学ぶ事が出来ます。自分の中で気に入った表現は記録し、ライティングのテストなどで活用しました。二つ目は読書です。私の主目的はIELTSで必要なスコアを取得することだったので、試験対策のためにも様々なジャンルの本を毎日20ページ以上読むようにしていました。そして、知らない単語は全てExcelにまとめて自分用の辞書を作ったことで、読むスピードだけでなく語彙力も大きく向上しました。

ルームメイトと帰国日に空港にて

Taylor君の自宅にて

 私は4年次の卒業研究以外の単位を取得した後で留学したこともあり、私にとって留学で得られた最も大きなものは大学院出願に必要な資格の学習に専念できる時間だと思います。もし4年以内の卒業を目指す中で留学していたならば、留学先で専門科目を履修し、その単位を神奈川大学で認定してもらうことになりますが、その場合は大学院出願に必要な試験対策などを行えず全てが中途半端に終わっていたのではないかと思います。COVID-19の影響により7カ月間で留学を終えましたが、留学後に受けたIELTSではOverall 7.0 (L:8.0、 R:7.0、 W:6.5、 S:6.5)でアメリカの大学院出願の要件を満たすことができ、十分に成長を実感できたことに加え新たな友人にも出会えたので留学をしてとても良かったと思います。神奈川大学卒業後は、学びの場をアメリカのウィスコンシン大学(University of Wisconsin-Madison)へ移して修士課程で研究に励み、専門分野で英語を駆使する能力を高めたのち工作機械メーカーへの就職を希望しています。

 最後に、学生の皆さんに向けて幾つかのメッセージを送りたいと思います。一つ目は、留学できる機会を有効に活用するべきです。私が留学したパデュー大学は、神奈川大学内の募集定員2名に対して応募者が2名だけでした。国内の他大学では、特にアメリカなどへの留学は出願者が多く倍率も高いそうです。神奈川大学では、非常に貴重な体験の出来る留学を容易にできる環境にあるのに出願者が少ないのは勿体ないと思います。興味のある方は、あきらめる前に一度調べてみることをお勧めします。二つ目は、理由はどうであれ学生であるならば勉強しておいて損はないということです。アメリカではGPAがとても重要視され、大学院進学では一般にGPAが3.0以上ないと出願要件を満たせません。私は、入学時には特に目標などは持っていませんでしたが、ただ周りの友達より良い成績を取りたいがために勉強し、3年次に大学院留学をしたいと思った際に結果的にGPAが3.0以上あったので留学することが出来、とてもラッキーでした。人生いつどこで転機が来るか分からないので、未来の自分が後悔しないためにも勉強することをお勧めします。三つ目は、工学部の学生こそ英語を勉強するべきです。工学部を選ぶ多くの学生は、機械やものづくりに興味があり、何らかの方法で社会の役に立つことに興味があると思います。ある先生が、「工学とは技術で人や社会の役に立つことをすること」と言っていた記憶があります。その相手を日本人に限定する必要はありません。英語を自由に話せれば、日本の素晴らしい機械、ものづくりの技術をもっと多くの人に伝えられるのではないでしょうか。私は、偶然履修した工作機械の授業で熱意を注げることに出会いましたが、おそらくそういったことは稀で、特別好きな分野などなく学生生活を終えて就職していく学生も多いと思います。興味、目標があればその過程の困難は全て乗り越えられるはずです。機械工学の関連分野は非常に多いので、1、2年次の時からどういった業界、機械などがあるのかを調べることで熱意を注げる分野がきっと見つかり、充実した学生生活が送れるのではないかと思います。

Taylor君の家族とクリスマスツリーを切りに行ったときの写真